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推し活としてのファンマーケティングと、転売対策での私たちの役割

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転売には、さまざまな要素が密接かつ複雑に結びついていて、完全な解決は非常に難しそうです。コロナ禍でオンライン配信という新しいマーケットが確立しましたが、近年では、ライブエンターテインメントの人気が復調し、同時に転売ニーズも熱を帯びています。

この現実を踏まえた上で、私たちは何をすべきでしょうか?そして、一般のビジネスにも役立てられる、ファンの満足度や信頼を高めるヒントがないか?探ってみましょう。

前回の記事はこちらです。

転売防止のために、それぞれの立場で何ができるか?

転売の不満をソーシャルメディアにポストしても、ただ流れていくだけ。個人レベルでも、より健全な環境を築く具体的なアクションがあります。

購入者としてできること・すべきこと

  • 正規チャンネルを利用:公式ルートだけを利用し、ファンが安心して参加できる環境を支援する。
  • 情報を正しく認識:転売に関する課題やリスクなどの現状を知り、解決への取り組みを把握する。
  • コミュニティーに参加:建設的な意見や情報を積極的に共有し、コミュニティーで啓発する。
  • アカウントを安全に管理:パスキーや多要素認証、長く複雑なパスワードを、パスワードマネージャーで管理する。
  • 専用の電話番号とカード:チケット購入専用の電話番号やクレジットカードで、プライバシーを保護。
  • 購入履歴を確認:購入履歴を定期的に確認し、不正な取引がないかチェックする。
  • 活動に参加・支援:業界への提言や、行政へのロビー活動を実践する組織を支援したり、活動に参加する。

プラットフォーマーや興行主、行政に期待すること

  • 説明責任の要求:ファンやユーザー、アーティスト、取引先、株主などに対し、説明責任を果たす。
  • 厳格な本人確認:ファンが安心して参加できる、転売や偽造を防止する堅牢で柔軟なシステムを導入する。
  • データ保護の強化:個人情報の管理を徹底し、データ漏洩のリスクを低減する。
  • 転売行為の監視:転売や改ざん行為をチェックし、正規購入者が利用できるリセール経路を確保する。
  • 透明性の確保:手数料や流通過程など契約条件の一部を透明化し、各ステークホルダーが納得する条件を整える。
  • 消費者保護:転売行為を監視し、消費者保護の法整備を推進して、市場と業界全体の健全性を保つ。
  • 転売規制の強化:転売価格の上限規制や、転売業者に対する厳しい罰則、登録制度を導入する。
  • 教育と啓発活動の実施:消費者に、転売のリスクや正規の購入方法についての情報を提供する。
  • 国際的な協力:各国での法整備と国家間の調整を進め、情報共有や連携を強化する。

仲間を増やすファンマーケティング

御社の商品やサービスはどの程度人気でしょうか?転売されなくても、バズって話題になったり、順番待ちの列になるとか、社員が残業続きなほど人気なら、ビジネスは絶好調かもしれません。

自社のガバナンスの外にある転売は、エンゲージメントや信頼性に悪影響を与えかねない、危険な要素です。その一方で、節度を持ってマネージメントできれば、新しいビジネスチャンスになります。そのエッセンスはファンの熱狂を加速させ、ブランドの認知を一気に拡大し、売上の増加につながります。

ここでカギとなるのが、ファンマーケティング。これは、企業やブランドが自社の製品やサービスに対する熱烈な支援者を育成し、彼らに販促活動の一部を担ってもらう手法です。ナーチャリング(顧客育成)を通じてファンになってもらえれば、より高額・多様な商品購入のアップセルの可能性が広がります。また、LTV(顧客生涯価値)が高い顧客は、安定した企業経営に重要な味方となります。

ファンマーケティングの主な特徴

  • ファンのエンゲージメント:ソーシャルメディアやイベントを通じてコミュニケーションを図り、親密度を深める。ファンを獲得すると、長期的な関係を築くことができ、リピート購入の可能性が高まる。
  • ユーザー生成コンテンツ:ファンが自分たちで作ったり共有する、ブランドに関連するコンテンツ(レビューや写真、動画など)CGM(Consumer Generated Media)を尊重し、推奨・促進する。
  • コミュニティーの形成:ブランドに愛着を持つファン同士がつながるコミュニティーを構築し、相互にサポートし合える環境を作る。
  • ロイヤリティープログラム:ファンの忠誠心を高めるために、特典や報酬を提供するプログラムを導入する。
  • フィードバックの活用:ファンからの意見や要望を傾聴し、次の製品展開やサービス改善に役立てる。

「推し活」支援でもあるファンづくり

ファンマーケティングを別の呼び方で表現するなら、ファンの「推し活」を後押しする手法です。「推し活」は、単なる「消費」だったエンタメコンテンツを、ポジティブに変化させ、その経済効果も莫大な数字を示しています。

文化的な活動に限らず、その分野のユーザーを増やすには、「にわかファン」を増やし育てていくことが必須。既存顧客との関係を強化し、新しいユーザーも楽しさにのめり込む(つまり「沼らせる」)味方になってもらうことがポイントです。

例えば、限定商品を優先販売したり、特別な体験の共有・共感につながれば、転売も抑制できます。

▼「推し活」が幸福度を高める?!「応援」から「感謝」まで、多様な推しとの関係性を生み出す”オシノミクス” ―HAKUHODO HUMANOMICS STUDIOがレポート第2弾を発表― |お知らせ|博報堂 HAKUHODO Inc.
https://www.hakuhodo.co.jp/news/info/108564/

転売に関わるのもまた、熱狂的信者たち

その一方で、転売や詐欺にはファン心理が悪用されています。「そのグッズや体験にいくら使ったのか?」という経済活動は、忠誠心の証だからです。熱い情熱と、厳しく冷静な眼差しを同時に持つことは、非常に難しいことです。

  • 可視化される熱気:ファンの熱量やコミュニティーの盛り上がりが、ソーシャルメディアで可視化され、過熱するファン心理をさらにブーストします。需要がさらに需要を作り出すサイクルに。
  • 試される宗教的忠誠心:拠り所を複数持つことは信頼ですが、一つに頼りきることは依存。外部からの指摘を攻撃と受け取ることで、コミュニティーはより硬直化し排他的に。
  • コミュニティーの分断:正規購入ファンと、転売で買った人との間に分断が生じます。コミュニティー内の不満と批判は魔女狩りや内紛に発展し、荒廃した支持基盤は弱体化していきます。
  • エンゲージメントの低下:正直者が正当な権利を得られない状態が続くと、ファンの満足は低下します。不満は、転売者やプラットフォーマーではなく、ブランド自身に向かうリスクも。
  • 社会的責任:人気の転売チケットの一部は、例えば旧ジャニーズのタレントであり、宝塚歌劇の公演。ファンやメディアが、間接的に性加害やパワハラを助長してきた面は否定できません。
  • さらなる犯罪の入口に:転売は個人でも手軽にできてしまう時代。悪質なホストクラブの問題も「推し活」化しているという、社会学的指摘も。

ナラティブで生み出される持続可能性

予測不能で混沌とし、不安だらけの現代はBANIという概念で象徴されています。

先行きが不透明なら、企業としては目先の利益確定を急ぎたくなるもの。しかし、急激なバズは、持続可能なビジネスモデルを実現する上で諸刃の剣です。企業やブランドの持続的な成長を実現するためには、歪な需要は理性的に抑制し、利益と評価を確保していくことが重要です。

それを実現できるファンを含むステークホルダーとの深い関係は、「共創していく物語」であるナラティブを通じて作られます。ナラティブは、ブランドのストーリーをより魅力的に伝えることに寄与します。ブランドからの単なる一方的な情報提供ではなく、顧客もブランドの価値観やビジョンに共鳴し、新たな語り手として参加したくなるような体験です。

企業やブランドは、ファンを優先する販売戦略や、データ分析を活用したマーケティングを実践し、サービスや商品を通じてファンに価値を提供します。また、透明性と説明責任、ガバナンスなど、社会的役割を果たしながら、顧客の共感を獲得していきます。

一方の顧客も、自分たちの幸福や満足の追求のため、企業の良好な価値を正当に評価します。一方で、利益や正義に反する動きがあれば、批判や抗議の声を上げる権利と義務があります。建設的な意見を表明することで、企業の持続可能な活動を支援します。

こうして対話が繰り返されることで、単なる顧客がファンへと変わっていく物語が紡がれます。これはもはや、転売対策以上の大きな視点の施策です。ESG(環境・社会・ガバナンス)やSDGs(持続可能な開発目標)を意識した企業活動が、ステークホルダーに継続して高い価値をもたらすのです。


音楽ライブや演劇チケットの転売を入口として、その背景や周辺事情を、複数回の記事で探ってきました。残念ながら今後も、人気イベントや限定グッズが転売マーケットで飛び交うことは続くでしょう。しかし、消費者として私たち個人がそれぞれの立場で、何をすべきか?すべきではないのか?正しく知って、冷静に判断し、具体的に行動することも「推し活」をエンジョイする一部といえそうです。

また、持続可能性という点では、一般のビジネスに役立つ数々のヒントもあります。転売は、ソーシャルメディア同様、自社で完全にコントロールすることは不可能です。しかし、マネージメントなら十分可能です。顧客をマーケティング上のターゲットや数字として見るのではなく、共創する物語の語り手として、真摯に傾聴と対話を繰り返す。意思決定を迅速に繰り返し、オーディエンスに反応する。自社の付加価値を示し、一人の顧客からファンへと変わってもらえる行動変容を促す。これらのアクションは、決して他者の手に売り渡すことなく、自社でマネージメントしていくことが求められます。

個人で気をつけていることや、御社ならではの取り組みはありますか?ぜひ、コメントやソーシャルメディアでぜひお聞かせください。ご意見・ご感想、お待ちしています。

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リプリパ編集兼外部ライター
企画制作や広告クリエイティブ畑をずっと彷徨ってきました。狙って作るという点ではライティングもデザインの一つだし、オンラインはリアルの別レイヤーで、効率化は愛すべき無駄を作り出すため。各種ジェネレーティブAIと戯れる日々です。
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