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皆が使う言葉が正義なのか?日本語入力変換について考える

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日本語は、言語的にも非常に複雑な体系を持つ言語です。私たちは、社会生活で一般に使う2,136の「常用漢字」以外に、ひらがな・カタカナ・アルファベット・記号類(約物)などを、キーボードの限られたキーを使って入力しなければなりません。今回は、ストレスなくスムーズに、自分が表現したい言葉や文章を入力することと、日本語の「正しさ」について考えてみます。「書く」から「入力する」、「両手で打つ」から「片手で触る」が増えた日本語について、いろんな角度から見つめてみました。

いろいろある、日本語ならではの入力変換ツール

皆さんは、普段の入力変換ソフトウェアには何を使っていますか?特に気にしたことがなく、会社の環境にあるものをそのまま使っている人にとっては、そんなことは考えたこともないかもしれません。また、自分なりのこだわりがあって選び、ユーザー辞書を丁寧にメンテナンスしている人もいるでしょう。『パソコンのキーボードが苦手なので、スマホで入力していいですか?』と真顔で聞いてきた新人に、衝撃を受けた教育担当者の話も聞いたことがあります。

スマートフォンやタブレットでは、パソコン用にはなかったいろいろな入力が可能になりました。例えば、日本語を入力する時に、キーをタップした状態のまま上下左右に指を滑らせる「フリック入力」や、アルファベットを入力する時に、キー面からいちいち指を離さず、単語の順番をそのままなぞっていく「グライド(なぞり)入力」、マイクに喋る音声入力などは、スマートフォンならではの入力変換方法です。

キーボードで入力した文字列を、目的の表記に変換するのが、IME(入力方法編集プログラム – Input Method Editor)です。IMEは、WindowsならMicrosoft 日本語 IME、macOSなら日本語入力プログラムとしてOSに組み込まれています。IMEと呼ばれる以前は、FEP(Front End Processor)と呼ばれていましたが、インターネットの常時接続やスマートフォン・タブレットの普及で、入力変換できる環境がよりスムーズになり、多様化しています。

普段、仕事で使って慣れている以外のツールを知る機会はどうしても限られるので、いくつか代表的なIMEを紹介します。

Google日本語入力/Gboard

https://www.google.co.jp/ime/

OS標準の入力変換以外で最も人気のツールといえば、無料で使えるGoogle日本語入力/Gboardでしょう。プラットフォームも選びません。Googleの強みであるWeb検索と連動し、話題の専門用語や固有名詞、人気の人物や場所の名前など、「皆が、今使っている言葉や単語」が反映されるのが特徴です。郵便番号から住所に変換したり、「もしかして」検索を活かしたミスしやすい誤変換の訂正など、以下の有料IMEに勝るとも劣らない強力な機能を備えています。ちなみに、技術の一部にはオープンソースソフトウェアが使われています。

ATOK(エイトック)

文章を書くプロにとって、デファクトスタンダードともいえる人気IMEがこれです。プロだけでなく、実はソーシャルメディア特有の表現やカジュアルな言葉も、正確に変換できるのも見逃せません。しかし何といっても強力なのが、ディープラーニングと人間による用語のチューニングです。ユーザーの好みを判断したパーソナライズや、クラウド推測変換、誤用・誤字・脱字の訂正機能も大きな魅力です。広辞苑や大辞林、三省堂のことわざ・慣用句辞典にウィズダム英和・和英辞典などのクラウド辞書や、医療・放送・建設など、業界専門の辞書がラインナップされているのも安心です。『流石にもうこれ以上の機能や精度向上はないだろう』と思う、さらにその上をいくアップデートが続いています。一度使ったらやみつき間違いなし。

mazec(マゼック)

入力と手書きのいいとこ取りをした、独自の「交ぜ書き」がユニークなIMEです。開発したのは、前述のATOKを開発・販売しているジャストシステム創業者の浮川和宣さん。今でも自治体を中心に一部で根強いファンを持つ、日本語ワープロソフトウェア「一太郎」の開発者として、パートナーの初子さんと共にパソコンの日本語入力を牽引してきた人物です。60歳で第二の創業というベンチャースピリットと、創業直後に発表されたiPadにインスパイアされた、古巣のキラーアプリと競合する製品開発もなかなか胸アツな展開。日本語入力変換からさらに発展し、教育機関や建設業など、現場の細かいニーズに最適化したサービスがあるのも興味深い展開です。

普段使う言葉も、セキュリティーの対象になる現代

スムーズで柔軟な入力変換ツールは仕事の効率化につながるので、機能だけでなく自分の好みやニーズに合わせてIMEを選ぶのはオススメです。しかし、職場で使えるIMEが情シスによって限定されていることは一般的です。というのも、入力変換している言葉や履歴、ユーザー辞書は、重要なセキュリティー要素だからです。

中国の検索エンジン大手である百度(バイドゥ)の日本法人が開発・運営する、スマートフォン向けのIMEであるSimejiは、入力アプリとして人気です。ランキングでも、常に上位に入っています。しかし2013年、パソコン用のBaidu IMEと共に、入力された文字列がユーザーに無断で外部のサーバに送信されているセキュリティーリスクが判明しました。また、競合他社製品への高負荷なアクセスも報告されました。

さらに、主に日本語圏のユーザーから熱い要望があったにも関わらず、Appleは長らく、iOSでサードパーティー製の入力変換アプリの使用を開放しませんでした。また、キーボード経由でiPhoneの操作を許容する「フルキーボードアクセス」は、許可するかどうかがセキュリティー項目の一つです。

自分の過去の履歴を参照したり、自分用にパーソナライズされれば、入力作業はとても楽になります。自動的に辞書に登録された言葉を選べば、誤変換も減らせます。しかし、私たちが仕事で書く文章や、プライベートでソーシャルメディアに投稿する言葉は、たとえ匿名化されているとしても、その取り扱いや許可には慎重な姿勢が必要です。

入力している文章や選んでいる単語は、使っているデバイスや日時などと共に、その人が関わっている業務や将来の計画、次に取る行動、感情を示す大きなヒントになっていることを、常に意識しておきましょう。

さて、今回は長くなったので、次回はちょっと違う視点から日本語の取り扱いを考えてみましょう。用語の定義である「語釈」と、用語の正しさ・誤用の話をします。

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リプリパ編集兼外部ライター
企画制作や広告クリエイティブ畑をずっと彷徨ってきました。狙って作るという点ではライティングもデザインの一つだし、オンラインはリアルの別レイヤーで、効率化は愛すべき無駄を作り出すため。各種ジェネレーティブAIと戯れる日々です。
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