いろいろな数値から予測する2025年のローコード・ノーコード環境
ローコード・ノーコード(LCNC)開発プラットフォームの勢いが止まりません。IT人材不足や開発コスト削減の要請に応じて年々市場が拡大しています。そこで、近年の統計や傾向、予測など、象徴的ないくつかの数字に注目してみました(参考資料は末尾を参照)。BANIという概念で象徴されるように、予測不可能な状況が当たり前の現代。しかし、これらの動向は、2025年をある程度予想する上で参考になるかもしれません。
拡大を続けるローコード・ノーコード市場
約3兆→28兆円
世界のLCNC市場規模
IDCによると、世界のローコード・ノーコード開発の売上は、2026年に210億ドル(約3兆1,800万円、レートは以下もすべて2025年1月22日時点)に成長すると見られています[1] 。Gartnerは2027年に650億ドル(約9兆8,500万円)[2]、Research and Marketsは2030年に1,870億ドル(約28兆3,400万円)にまで拡大すると予想しています[3]。
ちなみに、日本の2024年度の一般会計予算の総額は112兆5,717億円[4]。ローコード・ノーコード市場の調査企業や年数ごとにゆらぎはあるものの、引き続き拡大傾向にあることは変わらず、期待の大きさがわかります。
ローコード・ノーコード開発プラットフォーム:229
299
ローコード・ノーコード開発プラットフォーム
2024年11月時点で、ローコード・ノーコード開発プラットフォームは229確認されています[5]。
Creatioのようなノーコード開発プラットフォームは、非エンジニアのビジネスユーザーが使うことで、必要なソリューションを自分で作成できることが大きなメリットです。フォームやデータ収集、ワークフローの効率化・自動化を始め、紙や電子メール、スプレッドシートを置き換えるニーズにも対応しています。営業と顧客のエンゲージメントや、カスタマーサービスとサポートといったCRM(顧客関係管理)に特化したツールも特徴的です。
一方、OutSystemsのようなローコード開発プラットフォームは、優れたコーディング・スキルを持つエンジニアが使うことで、大きな威力を発揮します。スピーディーなプロトタイピングや効率的なテスト環境、豊富な外部サービスとの連携、エンタープライズレベルの高度なセキュリティーが高く評価されています。データ主導の意思決定や、パーソナライズされた顧客体験を効率的に実現しています。
今は、自社の目的ごとにこれらを組み合わせて使う、マルチ・プラットフォーム戦略が重要になっています。
拡大していくローコード・ノーコードのニーズと課題
供給能力に対する需要スピード:5倍以上
5倍以上
供給能力に対する需要スピード
アプリ開発サービスに対する市場の需要は、それを提供するIT能力を少なくとも5倍上回るスピードで成長すると、2015年に予測していたのがGartner[2] 。10年後は、ギャップがさらに開いているはずです。
ニーズにやっと追いつくかと思えば、目標はすでにさらに先へと変化を続ける—新しい技術へのキャッチアップや人材不足のギャップは、拡大する一方で永遠に埋まりません。企業は、市場や業界、社会の目まぐるしいスピードに翻弄されながらも、ニーズに応えて価値を提供し続けなければならない、厳しい状況が続きます。
非IT業界の新規ユーザー:約50%
約50%
非IT業界の新規ユーザー
旧来のシステム開発では、エンジニアの人月・人日計算や、開発に必要なコードの行数(SLOC : source lines of code)による単価で、開発・運用コストが計算されていました。これをどこまで下げられるかが、多くの企業で課題となっています。
これまでは、ローコード・ノーコード開発のユーザーはIT業界や大企業が中心でしたが、徐々に非IT系の中堅企業へも導入が拡がると見られています。Gartnerの予測では、2025年には、新規ユーザーの半分をIT以外の業種が占めるようになります[6]。
大きな戦力として期待されるシチズンデベロッパー
使っているITツールで仕事に不満:50%+
50%+
使っているITツールで仕事に不満
ローコード・ノーコード開発プラットフォームが、業務の合理化・自動化のために重要な投資であることは、多くの企業で経営幹部にも浸透しています。にも関わらず、技術革新やビジネス環境の変化が追い切れずに、エンジニアの質と量共に十分に確保できていません。
G2によれば、労働者の50%以上が、使っているソフトウェアのせいで仕事に不満を持ち、それが原因で退職を考えたことがあるとも[7]。自分がストレスなく使えて、成果を上げられるツールを自分自身で作れる環境は、優秀な人材をつなぎ止める従業員満足(ES)としても重要になっています。
非エンジニアによる開発:80%
80%
非エンジニアによる開発
そこで重要な役割を担うのが、非エンジニア。カスタム・アプリの多くが、IT部門の外でユーザー自身によって作られるようになります。
Gartnerの予測では、2025年には、企業が開発する新しいアプリケーションの70%は、ローコード・ノーコードがベースに[8]。さらに、2026年までに、IT部門以外の開発者であるシチズンデベロッパー(市民開発者)が、ユーザーベースの少なくとも80%を占めると想定されています[9]。
プロに対する非エンジニアの総数:4倍
4倍
プロに対する非エンジニアの総数
2021年の段階でGartnerは、2023年には、大企業で活躍するシチズンデベロッパーの数は、プロの開発者の数の少なくとも4倍にまで増えると予想していました[10]。
McKinsey & Companyの調査によると、シチズンデベロッパーに権限を与えている企業は、そうでない企業よりも、イノベーションの指標で33%高いスコアを出しています[11]。つまり、非エンジニアの育成は、単に人材不足の解消につながるだけでなく、「システム開発の民主化」による新しいビジネスチャンスを喚起しているといえます。
ローコード・ノーコード普及の鍵はAIとエンジニア
AIはシステム開発に必須:31%
31%
AIはシステム開発に必須
AIアシスタントの進化により、ローコード・ノーコード開発プラットフォームの利便性が飛躍的に向上しています。自然言語で指示できるプログラミングの補佐に加え、エンジニア不要のテストやデバッグ機能も強化されています。プロセスが自動化されることで、専門知識を持たなくても自由なアプリ設計・開発が可能なため、すでに31%の企業がシステム開発にAIが不可欠だと回答しています[12]。
レガシーシステムの比率と経過年数:70%が20年以上前
70%が20年以上前
レガシーシステムの比率と経過年数
Fortune 500の大企業が使用しているソフトウェアの70%は、20年以上前に開発されたものだという分析もあります[13]。ローコード・ノーコード+AIは、これらのレガシーなシステムのリプレイスという点からも注目されています。
ビジネス+ITのコラボレーション:59%
59%
ビジネス+ITのコラボレーション
ローコード・ノーコード開発は、非エンジニアに対する民主化を実現するだけではありません。プロジェクトリーダーにとって、バックログの管理がプロジェクト推進の障害になっています。未完了のタスクや機能、要件などのリストであるバックログは、スムーズで効率的な進行に不可欠ですが、技術的負債の影響も強く受けます。
Stripeは、エンジニアは技術的負債の管理に実に33%もの時間を費やしていると警告しました[14]。技術的負債とは、リリースのプレッシャーなどが原因で、品質を犠牲にして短期的な目標達成を優先した結果、後から大きな修正コストが発生する状態のこと。これは、エンジニア個人にとってマイナスなだけでなく、企業がビジネスを素早く展開・変更・拡大する上で、大きな障害となります。
そのため、ITスキルの有無だけでなく、異なる年齢、教育、人種によって構成されたチームが鍵。ローコード開発を使う59%のプロジェクトが、ビジネスとIT双方のグループによるコラボレーションというレポートは、示唆に富んでいます[15]。
ローコード・ノーコード開発の課題
ローコード・ノーコードへの不安:47%
47%
ローコード・ノーコードへの不安
多くの企業でローコード・ノーコード開発プラットフォームの導入が進む一方、47%の企業が、知識や人材不足などの懸念からまだ導入に至っていません[16]。導入したものの、実際には使っていなかったり、自社に必要なアプリを開発できていない企業もあります。また、アプリの拡張性やセキュリティー、ベンダーロックインを不安視する企業も。
実際に導入して社内にノウハウや人材を確保している多くの企業と、二の足を踏んだままの企業との間で、今後ますます格差は広がると想定されます。
コアな開発にはNCLCは使っていない:31%
31%
コアな開発にはNCLCは使っていない
最後に、注目すべき数値として、ローコード・ノーコードを導入している企業の31%は、最も価値が高いと自社で考えているシステム開発には使用していない点があります[16]。つまり、すべてをローコード・ノーコード化するのではなく、1/3はスクラッチなど他の手法で開発・運用している様子が伺えます。
この数値を高い・低いと見るかは、判断がわかれるでしょう。DXが期待したほどには進まないまま「2025年の崖」を迎えた日本企業や業界によっても、バラツキがあるはず。AIのさらなる普及と連携拡大に伴って変わっていくのか、比率は変わらないまま内容が大きく変化していくのか、注目する必要がありそうです。
厳しい状況の変化にも、柔軟かつ迅速に対応するためのLCNC
2025年は、新型コロナウイルスのパンデミックから丸4年。IT化・リモート化だけでなく、ローコード・ノーコード化も進み、幅広いビジネスシーンで使われています。また、ChatGPTによる生成AIのブレイクから2年が経過し、いろいろな実務へのAI導入もさらに進んでいます。
ローコード・ノーコード開発は、AIを使った業務プロセスのさらなる自動化や、さまざまなシステムとの連携・リプレイスなどを通じて、これからも新しいビジネスや製品のイノベーションを支えていきます。社会状況がどのように変化しても、自社のビジネスを迅速に対応させるための要素として、その重要性はさらに高まるでしょう。これからも目が離せない一年になりそうです。
参考資料
[1] Worldwide Low-Code, No-Code, and Intelligent Developer Technologies Forecast, 2023–2027
https://www.idc.com/getdoc.jsp?containerId=US50224723&pageType=PRINTFRIENDLY
[2] How To Deliver Enterprise Mobile Apps Faster
https://www.gartner.com/smarterwithgartner/how-to-deliver-enterprise-mobile-apps-faster
[3] Market Research Reports – Research and Markets
https://www.researchandmarkets.com/reports/5184624/low-code-development-platform-market-research
[4]
[5] Top Low code / No code development platforms of 2024
https://aimultiple.com/low-code-platform
[6] Gartner Forecasts Worldwide Low-Code Development Technologies Market to Grow 23% in 2021
https://www.gartner.com/en/newsroom/press-releases/2021-02-15-gartner-forecasts-worldwide-low-code-development-technologies-market-to-grow-23-percent-in-2021
[7] State of Software Happiness Report 2019
https://learn.g2.com/state-of-software-happiness-report-2019
[8] Gartner Says Cloud Will Be the Centerpiece of New Digital Experiences
https://www.gartner.com/en/newsroom/press-releases/2021-11-10-gartner-says-cloud-will-be-the-centerpiece-of-new-digital-experiences
[9] Gartner Forecasts Worldwide Low-Code Development Technologies Market to Grow 20% in 2023
https://www.gartner.com/en/newsroom/press-releases/2022-12-13-gartner-forecasts-worldwide-low-code-development-technologies-market-to-grow-20-percent-in-2023
[10] Gartner: Citizen developers will soon outnumber professional coders 4 to 1 | VentureBeat
https://venturebeat.com/business/gartner-citizen-developers-will-soon-outnumber-professional-coders-4-to-1/
[11]
[12]
[13] The 2025 State of Application Development | OutSystems
https://www.outsystems.com/1/state-app-development-trends/
[14] The Developer Coefficient – Stripe
https://stripe.com/files/reports/the-developer-coefficient.pdf
[15]
[16] 32 Low-code Development Statistics to Know Before Adopting
https://www.g2.com/articles/low-code-development-statistics