心理的安全性が、組織とチーム、個人の成長にとって重要な理由
組織の成長にとって重要だと言われ、ここ数年注目を集めているキーワードの一つが「心理的安全性」です。人が本当に安心して伸び伸びと働けるかどうかは、グローバリズムや成果主義の拡大、目まぐるしく変わるビジネス環境、高プレッシャーとストレスフル、慢性的な人手不足の社会において、ますます重要になっています。今回はこの心理的安全性とは何なのか、なぜ重要なのかについて考えてみましょう。
Googleが膨大な手間とコストを掛けて分析した心理的安全性
2003年2月1日、アメリカの宇宙船スペースシャトル「コロンビア号」が大気圏に再突入する時に、爆発事故が起き、機体と共に7人の宇宙飛行士の命が空に散りました。直接の原因は、発射時に外部燃料タンクの断熱材が剥落し、機体にダメージを与えていたからでした。
ハーバード・ビジネス・スクールのエイミー・C・エドモンドソン氏が事故を調査した結果、打ち上げ直後に問題が起きていたにも関わらず、現場でそのことを把握したエンジニアが、NASA(アメリカ航空宇宙局)上層部に意見できない風土であったことが分かりました。ここで重要とされたのが、心理的安全性(psychological safety)という概念です。
これは、人々がチームとして活動する時、人間関係が悪化してしまうことを心配せず、メンバーがお互いに自分の意見を正直に伝えられる状態を意味します。チームのパフォーマンスを最大化させ、創造性や革新性を向上させる上で、この心理的安全性が重要視されます。
この心理的安全性が大きく話題になったきっかけが、2016年にGoogleが発表した研究結果でした。これは、同社が2012年から生産性向上のために、膨大な手間とコストを掛けて自社のチームを分析した「プロジェクト・アリストテレス」という計画の研究成果の一つでした。
Googleの調査によると、心理的安全性が高いチームは、よいパフォーマンスで多くの収益をもたらし、従業員の定着率も高く、幹部から2倍の頻度で効果的だと評価される可能性が高いとされています。
IT界の巨人Googleの発表という点も注目を集めた理由の一つですが、テクノロジーが急速に発展する中で、効率がよく生産性が高い働き方を多くの企業が求めていたという背景もあるでしょう。
▼Google re:Work – ガイド: 心理的安全性を高めるhttps://rework.withgoogle.com/jp/guides/understanding-team-effectiveness/#foster-psychological-safety
なぜ、組織やチームの成長に心理的安全性が重要なのか?
では、心理的安全性がなぜ重要なのかを見てみましょう。
仕事で、メンバーが自分の考えや意見を自由に発言できる状態を実現することは、チームのパフォーマンスや生産性に大きな影響を与えます。いろいろな機関が生産性の高い優秀なチームを分析したところ、生産性に強く影響している要素は、他者への心遣いや、どのような気づきも安心して発言できるという心理的な要素であることがわかりました。
心理的安全性が確保された組織では、メンバーは自分の考えや意見を自由に発言できます。自分が温めていたアイデアやマイナスの懸念を素直に表明しても、人格攻撃されるリスクがないからです。質問に対しても、的確なフィードバックや積極的な意見交換で対話が生まれます。アイデアを共有することで、効果的なコラボレーションが可能になり、チームメイトの多様な視点を活用できます。
もし、ネガティブな結果や判断があっても、それらを過度に恐れることなく、リスクを冒し、間違いを認めることができる安心感があります。リーダー自らが自分のミスや欠点を率先して公表することで、従業員たちの無駄な緊張感を取り除けます。
信頼関係が築かれたチームでは、メンバーが批判や罰を受けることを心配せず、安心して自分らしさを発揮し、チームと自分自身の目標達成に貢献することができるのです。これは、組織が成長する上で、大きな原動力となります。
- 情報や意見交換がスムーズになる
- モチベーションや生産性が向上する
- イノベーションが生まれやすくなる
- 自分と他者それぞれのミスや失敗から学べる
- ストレスが減り、人材の定着率が高まる
心理的安全性が確保されていないチームの、ネガティブ効果
逆に、プレッシャーが非常に強く、厳しい成果主義が導入されているような組織では、心理的安全性など確保されるはずはありません。新しいことに挑戦して失敗するなんて無駄。数字を上げるためなら、何でもやるようになるのは当たり前。他のメンバーを助けるようなバカな真似はしない。それどころか、他者の成果を横取りしたり、酷ければ邪魔したり貶めたり。間違いなくパワハラ体質が蔓延しているでしょう。
これでは、メンバー同士がギスギスした雰囲気になるどころか、チーム全体にネガティブな緊張感が高まり、ひいては組織全体に悪影響を及ぼします。
- 仕事の質やアイデアがマンネリ化する
- 仕事のやり方に問題があっても改善されにくい
- 問題が起こったときの解決に時間が掛かる
- 会議の質やチームの生産性が低下する
- メンバーの不安やストレスが高まり、離職率もアップ
チームにおいて心理的安全を達成するためには、いくつかの障壁があります。医学関連分野における最大級のデータベースPubMedに掲載された研究では、心理的安全性を阻む障壁として、次の4つの項目が指摘されています。
- 上下関係
- 不十分な知識による認識
- 性格
- 権威主義的リーダーシップ
出典:Exploring the barriers and facilitators of psychological safety in primary care teams: a qualitative study – PubMed(プライマリーケアチームにおける心理的安全性の障壁と促進要因の探索:質的研究)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33761958/
これらの阻害要因は、チームメンバーが自分のアイデアや懸念を表現したり、リスクを取ることに違和感を覚えるような環境を作り出してしまう可能性があります。また、燃え尽き症候群、ストレス耐性の低減、ネガティブな結果に対する恐怖などが起き、間接的に人命を危険に曝す最悪の事態を招きます。
障壁を克服し、チームの心理的安全を促進するために、リーダーは学習すべき重要課題として捉えることが必要です。意識してフランクな環境を作ることも重要ですが、自分から多くの質問をすることで好奇心を示したり、時に自分自身の誤りを認めることも有効です。匿名のシナリオを使ってチームとワークショップを実施し、安全な心理状態を支える行為と傷つける行為の両方を根気強く学習していきます。
心理的安全性が実現されているか?質問と観察でチェック!
前述の、心理的安全性が確保されている・されていないのリストを、自分のチームに当てはめながら読んでいた人も少なくないでしょう。心理的安全性を測定するには、質問と観察という2つの方法があります。
まず、質問による測定では、チームメンバーに対して、以下のような7つの質問を投げかけてみましょう。
- 自分の意見や感情を自由に表現できるか?
- 新しいアイデアや提案が歓迎されるか?
- メンバーは、お互いに助け合っているか?
- ミスをしてしまった時、非難されがちか?
- 自分の能力や貢献が評価されているか?
- 自分が重要な存在だと感じられるか?
- 自分が成長できると感じているか?
一方、観察による測定では、チームの会話や行動を観察し、次の4つの指標から心理的安全性を測定します。
- 質問や疑問を出す頻度・回数
- 意見や提案を出す頻度・回数
- ミスや失敗を認める頻度・回数
- 助けやフィードバックを求める頻度・回数
心理的安全性が実現しているかどうかは、1on1(一対一)の面談やアンケート、何気ない雑談などで、定量的・定性的にチェックできます。もし、これらの質問や観察の結果、今のチームメンバーの心理状態に懸念があることが判明したら、すぐに改革に着手する必要があるでしょう。
とはいえ、『そういう余裕は、意識が高い大企業やIT業界だけのこと』『環境や仕組み作りは経営層の課題だろう』『古い考え方のオーナー企業や家族経営じゃ無理』という、否定的な意見が出るのもよくある話です。現状を肯定して維持したい「正常性バイアス」ですね。
次回は、これらの認識が誤解であることと、心理的安全性を確保するためにできる・すべき、具体的な施策について紹介します。